肖像写真
16世紀、フランドル派の画家ホルバインは、王室付き宮廷画家として、威風堂々たる絶対君主ヘンリー8世の肖像画を描いた。その絵は今でもロンドンの国立肖像画美術館に保管されている。秀逸なる技術を誇るマダムタッソーの蝋人形師達は、ホルバインの原画をもとに限りなく忠実にその威容を再現した。そして私は、ホルバインが王を描写していた時ルネッサンスの光を研究した。こうして絵という唯一の記録方法によって伝わった王の面影が、写真という代替え記録方法によって再現されもしこの写真に写された人物が、あなたに生きて見えるとしたら、あなたは生きているということの意味を、もう一度、問い正さなければならない。
- 杉本博司