In Praise of Shadow 980727, 1998

In Praise of Shadow 980726, 1998

In Praise of Shadow 980816, 1998

 

陰翳礼讃

 

 

谷崎潤一郎は、現代文明のもたらす暴力的な人工光に最期まで抵抗した一人だ。私もアナクロニズムが趣味だ。最先端の現代に住むよりも、誰もいなくなった過去に住むほうが、落ち着いていられる。 
火を人間のコントロール下に納め得たことが、人類をして他の動物達に対して圧倒的に優位な立場に立たせたことは間違いないだろう。それ以来、数百万年、人類の夜は火の光に照らされてきた。私は「蝋燭の一生」を記録してみることにした。ある真夏の深夜、すべての窓は開け放たれて、その夜の風が招き入れられた。蝋燭に火がともされると共に私のカメラのレンズも開かれる、蝋燭の火は風にゆらめきながら数時間の後に燃え尽きてはてた。そしてその後には、深い闇が残った。私はその深い闇を満喫しながら、ゆっくりとレンズを閉じた。蝋燭の一生は夜ごとに様を変えた。短くも激しく燃える夜、静かに、そよともせずに燃える夜、しかしどんな夜にも、美しい夜明けが訪れた。

 

-杉本博司