放電場
電気の語源は古代ギリシャ語の琥珀 (Elektron)であると言われている。毛皮と琥珀を摩擦させることによって二つの物質間に引力が生まれることから、この不思議な力が電気と名付けられた。18世紀になってこの現象は盛んに研究されるようになるが、特筆すべきは1752年のベンジャミン・フランクリンによる凧揚げ実験であろう。この実験でフランクリンは雷が電気であること、そして電気には陽極と陰極があることを証明してみせた。もちろんこの実験は生命の危険を伴うもので、実際にフランクリンの実験をまねてフランスの研究者が感電死している。その後マイケル・ファラデーが1831年に電磁誘導の法則を発見するに至って発電機や変圧器が考案され、人間の生活にも大きな変化がもたらされることになったのだ。あまり知られていないのだが、このファラデーの共同研究者の一人が写真の発明者の一人でもあのフォックス・タルボットだ。タルボットは銀の感光作用を利用してネガポジ法写真の開祖となった。天空を割り裂く稲妻を我が手中に収めたフランクリンの先例に習い、その閃光を再び人工的に作り出し、写真乾版の上に放電させてみようと思い立ったのは、彼ら先人達の大発見をもう一度我が暗室の内に再現させ、この眼で確かめてみたいと思ったからに他ならない。
- 杉本博司