直径1ミリの床

オーク表参道のエントランス部分設計にあたって、施主側からの要望は、空間そのもののアート化であった。

まず設置されるべきアートとして、三次関数の数式を立体化した数理模型を、6メートルの大きさで制作し、高さ9メートルの天井から吊るすこととした。「負の定曲率局面」と呼ばれるこの三次関数が作り出す双曲線が交わる点は、無限点に設定されている。この模型は無限点を視覚化する為に作られた。しかし物質として無限点を制作することは不可能である。ステンレス無垢材を削り出したこの模型の頂点は直径5ミリとなった。その頂点から3メートル下には敷瓦の床がある。数式上その双曲線が敷瓦を通過する地点では頂部の直径は1ミリとなる。数理模型直下の四半敷き敷瓦の中心に直径1ミリのステンレス棒が埋め込まれた。その双曲線が、地球の中心を通り、ブラジルのある地点を数ミクロンの直径で通過し、宇宙の果ての無限点で交差する。

その無限点に思いを馳せることができる装置としてこの空間は完成し「究竟頂」と命名された。この広い空間のなかの床上の1ミリの点を見つめる為の演出として、中国産割肌の500トンの石材が乾式工法で壁から吊られた。余談だが、この直径1ミリの床の坪単価は、世界最高となった。

ー 杉本 博司