陰翳礼賛
 
 



谷崎潤一郎は、現代文明のもたらす暴力的な人工光に最期まで抵抗した一人だ。私もアナクロニズムが趣味だ。最先端の現代に

住むよりも、誰もいなくなった過去に住むほうが、落ち着いていられる。

火を人間のコントロール下に納め得たことが、人類をして他の動物達に対して圧倒的に優位な立場に立たせたことは間違いない

だろう。それ以来、数百万年、人類の夜は火の光に照らされてきた。私は「蝋燭の一生」を記録してみることにした。ある真夏

の深夜、すべての窓は開け放たれて、その夜の風が招き入れられた。蝋燭に火がともされると共に私のカメラのレンズも開かれ

る、蝋燭の火は風にゆらめきながら数時間の後に燃え尽きてはてた。そしてその後には、深い闇が残った。私はその深い闇を満

喫しながら、ゆっくりとレンズを閉じた。蝋燭の一生は夜ごとに様を変えた。短くも激しく燃える夜、静かに、そよともせずに

燃える夜、しかしどんな夜にも、美しい夜明けが訪れた。

-杉本博司