Stylized Sculpture



人類の衣服の歴史は人類の歴史そのものと同じほど古い。人間が動物から目覚めて人間

になった時、そのときはじめて裸の皮膚に衣服を纏ったのだ、ちょうどアダムとイヴの

イチジクの葉のように。人類の最初の衣服は他の動物の毛皮だった、人間は智慧を持っ

たことによって他の動物より体力では劣っていても知的に圧倒的に優位に立った。そし

て道具と武器の使用で他の動物を殺し、その肉を喰い、その毛皮を得ることが出来る様

になった。

毛皮を得た人類は氷河期でも生き延びることが出来る体温調節機能を得た、そして逆に

自身の体毛は退化していった。こうして季節による温度変化に対して恒常的に体温を保

てるようになったことが動物としての人間の発情期の恒常化に繋がったと思われる。つ

まり人間は常に発情するようになりその繁殖力は強まったのだ。また衣服は性器の隠蔽

機能をも果たすことになり発情期の恒常化に伴う生殖活動の意識的なコントロールにも

役立った。こうした人間の衣服と肉体との関係の進展が人類の社会化と文明化に果たし

た役割は大きい。

古代文明が開花する頃には植物繊維による織りの技術と染色の技術をも手に入れること

になった。そして原始共同社会より階級社会へと進むにつれて、衣服はその階級を示す

表徴となった。特に権力者はその身分と富をその衣服によって過剰に表現した。エジプ

ト、メソポタミア、中国、そしてギリシャ、ローマ、へと各文明には独創的で固有の服

飾文化が花開いた。

15世紀前半から、ヨーロッパでは大航海時代が始まり科学的合理的精神も発達して、

地球も丸い星であることが知られ探検されて世界はどんどん小さくなっていった。その

後ヨーロッパの帝国主義的拡張は20世紀までに圧倒的に世界を支配することになり、

服飾文化もヨーロッパを中心として発達して近代に至った。第一次世界大戦の終わる

1920年代になるとジェンダーの意識が高まり女性も社会的に進出するようになり

ファッションも生活の近代化の中で重要な地位を占めるようになった、特にマドレーヌ


ヴィオネとガブリエル
シャネルが先駆的な仕事をしている。20年代は芸術の分野に

おいてもダダやシュールレアリズム未来派等の前衛芸術運動が盛んになりファッション

にも影響を与えるようになりアートとファッションは今や一体となって現代に至ってい

る。スタイライズドスカルプチャーは特にヴィオネ以降今日までのファッションの歴史

を人体とそれを包む人工皮膚を近代彫刻として見るという視点から制作されている。

 

- 杉本博司