反重力構造




地球上のあらゆるものは、生物無生物を問わず、地表にへばり付いている。哺乳類

の進 化を見ても、魚類が陸に上がり、鰭が進化して四足歩行の哺乳類となった。

四足が重力 を支えるのに最も適しているからだ。ところが人類は、この四足歩か

ら立ち上がり 二足歩行を始めた。二足は常に手が使えてあまりにも便利なので、

常に垂直の重力を支 えられるように骨格も進化して、現在に至っている。人骨構

造の反重力構造の完成である。

人類の文明化が進むにつれて、建築もこの重力にいかに逆らって高いものを建てる

かに興味が向けられていった。バベルの塔もピラミッドもその良い例である。世界

最古の木造建築として知られるのは、法隆寺の五重塔で、建てられてから1300

年あまり経っている。仏塔とは舍利と呼ばれる仏の遺骨を納める為の施設で、仏舎

利はほとんどの場合地下の石室に納められている。塔の役割は重力に抗って空に向

かって立つことである。他に何の機能も有しない。すなわち重力に抗えることを証

明することが、権威と権力の象徴になったのだ。

法隆寺の五重塔に次ぐ古塔は、奈良、当麻寺の東塔である。天平時代に建てられた

と推測される。明治35年に全面解体修理がなされた際に、創建材を含む古材で、

瘍んで重力を支えきれなくなってしまった部材が、明治の新材と交換されたのだ。

その古材群が、どうした訳か最近になって巷に出てきた。私は千数百年の時間の重

みを支えてきたその痕跡にいとおしさを覚えた。

これらの古材を毎日眺めくらしているうちに、私は当麻寺東塔を原寸大で撮影して

みることを思い立った。木造の塔は斗組という部材を重ねて重力を分散する構造に

なっている。奈良時代の組物は単純ながら逞しい姿で、重力を支えている。私はア

トラスの彫像が天を支えているようにも見えるその構造を、美しいと思った。

 

 

- 杉本博司